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Netflix配信『脱出おひとり島』から学ぶ男と女の心理戦

2022-01-10

ミント

番外編として、韓国発の恋愛リアリティ番組『脱出おひとり島』(Netflix配信)を紹介します。

「何もない無人島での熱い夏、天国と地獄を行き来する感情の嵐の中で、愛を見つけられるでしょうか」


こんな問いかけで始まるこのが、Netflix配信番組『脱出おひとり島』
「地獄島」と「天国島」で9日間の恋愛バトルが繰り広げられる。

作品概要

タイトル脱出おひとり島
原作・制作キム・ジェウォン
キム・ナヒョン
コメンテーターホン・ジンギョン
イ・ダヒ
キュヒョン
ハネ
製作年・国韓国・2021年
エピソード8エピソード
視聴時間1エピソード平均:約63分
ドラマタイプ恋愛リアリティ番組
おすすめ度🔹おすすめ
おすすめランク:💎殿堂入り 💠超おすすめ 🔷おすすめ 🎦趣味は人それぞれ

以下ネタバレ含みます。未視聴の方は視聴後にお読みください。

1.『脱出おひとり島』の実質的主人公、セフンの場合

屈託のない明るいが魅力のセフン。


彼は『脱出おひとり島』シーズン1の主人公と言って過言ではない。
なぜなら、誰よりも心揺さぶるドラマを視聴者に提供したのは、彼だからだ。

まずはセフンの性格について、勝手に分析してみる。
初日からマメに動きまわり、惜しみなく他者を気遣い、「メンバーに美味しい料理を提供したい」というサービス精神を発揮する。
このサービス精神はセフンという人物の骨格をなしているように思える。
人を喜ばすことに喜びを感じるタイプというか。


そして、「人気がありそうでないんです」と本人が言っているように、いわゆる「イイ人」で終わってしまうタイプでもある。

女性からみて、男性的魅力溢るるというよりは、友達だったらイイ奴だろうなと言う感じ。




それはある意味、恋愛下手であることを示していると思う。

たとえば、自分の気持ちに正直すぎるがゆえに秘密が持てない。
女性に不安を与えないという点ではアドバンテージになるものの、それは同時に恋愛対象としては物足りないという諸刃の刃なのだ。

簡単にいうとドキドキしない。あるいは、イイ人すぎて刺激がないとでも言うか。


しかし、驚くなかれ。彼には底知れぬ力があった。


誰もが驚いたのは、エピソード6のラストで放った彼の言葉だろう。(その時流れた『梨泰院クラス』のOSTはまさに彼のその後の奮闘を表現している)

セフンは、何度も振られた&自分には感心がないジヨンを、天国島で過ごすパートナーとして選んだのだ。
普通に考えたらこれはかなり無謀。大袈裟ではなくジヨンは迷惑がっていたワケで。ソヨンじゃないけど「やめとけ」と言いたくなる。

それでも、彼は自分の意志を貫く。
それは自分の気持ちに決着をつけるためであると同時に、ジヨンの心を引き寄せる最初で最後のチャンスに賭けたのだ。

エピソード6のラストで、正直彼に対する好感度はダダ下がりだったと思う。
諦めが悪すぎるとか、しつこいという感想を持つ人も少なくなかったはず。

でも、最後には勝利したのはセフンだった。
その瞬間、鳥肌がたった視聴者は少なくないだろう。
私も心動かされた。

「好みについて、好き嫌いがはっきりしています。タイプでなければキッパリ断ります」

そう言っていたジヨンの心を動かしたのだから。
これって本当にすごいことだと思う。



そして、セフンの一途さに気を取られて忘れられがちだけど、ジヨンもすごくイイ女だと思う。

人目がある中で、一度は拒絶した相手を受け入れるのはそれほど簡単なことではないはず。

セフンの言葉「自分のためだから負担に思わないで」という気遣いが功を奏したとはいえ、セフンを改めて知ろうとするジヨンの姿勢は柔軟性があり大人だと思う。そして何より、彼女の賢さが垣間見れる場面でもあった。

2.内面と外見のギャップNo.1、大人だけど子供のソヨン

ソヨンはメンバーの中で一番年上。
それもずば抜けて年上。
最年少の女子メンバーとの年齢差は10歳もある。

彼女の中には、その意識、あるいはプライドが常にあったと感じている。

年齢を明かさないルールだとしても、外見や話す内容で20代なのか、あるいは30代か、大まかなレンジはだいたい想像つくものだし。


さて、健康的なシクシーさを持つ彼女からは明るいオーラが溢れんばかり。
サバサバとした雰囲気やハッキリとモノを言う彼女からは姉御オーラがただよっている。つまりソヨンは”大人の私”を演出しているのだ。

しかし、彼女の内面はそうではない。
どちらかと言えば子供っぽい。

相手をコントロールしようとしてうまく行かないと、その感情を素直にぶつけてしまうあたり、かなり不器用な女でもあると思う。
助言という建前がなければ、セフンに告白できなかったところもその不器用さとプライドが交錯している。

さすがに表面的には平静を保っていたりもできるけど、内面に渦巻く負の感情に振り回されているのが見て取れる。

これ、視聴者の反感を買ってしまいかねない状況なのだけど、それはある意味、誰もが抱く感情だからこその近親憎悪のようなものだと思うのだ。

たとえば、「自分を好きか」と何度もジンテクに聞いてしまうあたり、彼女の弱さや幼さが垣間見える。
聞きたいと思っても、多くの人が実際に口に出さないのであろうその言葉を発してしまうあたり、嫌悪感を抱かれやすいのではないかな。
ある意味、彼女の行動は「恋愛あるあるすぎる」のだ。

その文脈で、ソヨンはすごく平凡な可愛い女と言えるのではないかしら?

そして、その健康的な明るさとは裏腹の「葛藤と負の感情」を内面に秘めている彼女がいたからこそ、『脱出おひとり島』が見応えある番組になったという側面は、少なからずあると思うのだ。
本音と建前が交錯したり、プライドが邪魔をしたり、感情の起伏が激しい彼女の存在はこの番組のスパイス的役割を果たしていた。

最終的には方向性を固め、ジンテクを落としに行く切り替えの速さは女子らしくて個人的にはスッキリ。負の感情を抱くことはあったとしても、サバサバした彼女の姿も嘘ではないのだと思う。自分でも本当の自分がわからず、悩んでしまうタイプなのかな?と勝手に妄想するのであった。

3.魔性の女にして恋愛マスター、ジアに学ぶ

ジア様はすごい。

一番最初に感嘆したのは、初日に行われた「好感度選択」だ。
ヒョンジュンに対して、「オッパ?」って。

前振りとして「年上が好き」と告げた後、あの一言は相手の心を撃ち抜くのは必至。なかなかできない高等テクニックだ。

それだけではない。
「近寄り難い外見と親しみやすい」というギャップをフルに活用。
ジアは、一見冷たそうに見える女が、たまにみせる笑顔の希少価値を知っている。

そして、ポーカーフェイスなのも素晴らしき。

それほど気がない相手でも、嫌な顔ひとつせず話を聞きき、受け入れ、合わせる。その包容力たるや。大人だ。。

一方でそれは、彼女に恋する相手を惑わすことにもなる。

たとえば、ジヨンがセフンを拒否する時は、残酷なまでにわかりやすかった。
ジアはと言えば、ポーカーフェイスでのやんわり拒絶。曖昧に相手を煙に巻く。結果、ミステリアスな彼女を男はいつまでも忘れられない。

そしてもうひとつ。
彼女の精神の自由さが男たちを不安にする。

追われると逃げるのが男の習性だということをジアは本能的に理解している。彼女は男を追うどころか、「すべては自分の気分次第」という態度を、相手を怒らせない程度に見せつける。(しかし、抑えるところはキチンと抑えていて、「あなただけ」と相手を安心させることも忘れない)。

男たちは必然的に彼女を追う側になり、ジアに夢中になっていくという素晴らしきループが出来上がるのだ。

そんな彼女が最後に、ヒョンジュンを選ぶところも憎い。

相手を散々待たせ、不安にさせたところで最大の飴を与える。
最強の「飴とムチ作戦」。

「ワンちゃん、行こう」

そう言われた男に喜ばれるのは、ジアだからこそ。

ヒョンスンを振る時の言葉も秀逸で、「ここでの出会いに理由があるはず・・・」と、どこまでも思わせぶり。



ともあれ、ヒョンジュンとジアがその後本当に付き合っていたとしても、ジアに翻弄され、ヒョンジュンは常に不安を抱えることになると思う。
そしてその不安と共に、彼女への想いが募るに違いない。

とにかく、恋愛を楽しむのならジアのやり方を学ぶべき。
彼女の場合それが天性のものだと思うので、普通の女があの技を身につけるのは簡単ではないとは思うけど。

4.「自分がこの番組のディレクターだったら?」という視点で考えてみる

ここからは、ちょっと視点を変えて「もし自分がこの番組のディレクターだったら」という視点で考えてみたい。

ディレクターとして、視聴者に何を見せたいかと言えば、出演者たちの葛藤と感情のぶつかり合いだ。

そう言う意味で、皆が幸せにカップルになってしまうと、出演者にとっては幸せであっても、番組としては面白みに欠けてしまう。

また、全員が協調性を発揮し譲り合うような態度をとれば、これまた視聴者の興味を引き続けることはできない。
少なくとも、自分の感情に素直に突き進むタイプの登場人物が数人は必要なのだ。

そういう意味で、葛藤、感情のぶつかり合いを体現した功労者は、セフンとソヨン。彼らはとてもいい仕事をしたと言える。



結果として、『脱出おひとり島』は以下の3つにフォーカスして進行し、その方向で編集されている。

  • セフンの不屈の精神、そして成功
  • ソヨンの女の情
  • 魔性の女、ジアに振り回される男たち

その中でも、特に視聴者の心を特に揺さぶったのが、セフンとソヨンなのだ。



一方で、あまり活躍の機会がなかったのは、イェウォンとジュンシク。
彼らは、プログラム開始2日目にして実質的なカップルになってしまった。
よって、二人にとっては「平和な地獄島生活を満喫」となるわけだが、その分出番は減ることになる。

また、後半戦から登場した女性二人(スミンとミンジ)も、場の雰囲気に慣れるまでの時間が必要だったと思われ、自身の感情を表現する機会が少なく目立たなかった。
二人がセフンのために投入されたと仮定すると、セフンの成功物語の助演としての役目は果たしたかもしれないが、彼女たちが主役になれる場面はなく、ちょっと残念な感じ。

そして、ジアとヒョンジュンカップルに激震を起こさせるために投入されたであろう、ヒョンスン。彼についても、もう少し時間があれば、安定に退屈しているように見えたイェウォンとのからみが期待できたと思うと、やや残念。


ところで、個人的には男たちの連帯が及ぼす恋への影響が気になった。

完全女側の目線で語らせてもらうと、男たちの連帯感的なものって言葉にできない居心地の悪さを感じる。男子校ノリとでもう言うか。
(男性からすれば、女性に同じことを感じるのかもだけど)

たとえば、数日過ごしただけで、”〇〇さんは××君のもの”みたいに、縄張り的なものができるところ。
後半に登場したヒョンスンは、「友情よりも愛」と言っていたけど、それはレアなケースで男性社会は基本、縄張り文化が根底にあると思っている。
女性にそれがないワケではないけれど、男性と比べればかなり希薄だ。

ともあれ、男性同士が仲良くなるに連れ、冒険しなくなる展開は興味深かった。
牽制し合いながらも、お互いの信頼関係を築こうとする姿勢を興味深く観察した。


そして思ったことは、こういう男女の性質の違いがあるからこそ、恋という感情が生まれるのだろうなということ。

外見と内面のギャップに心射抜かれてしまうのも同様に「違い」にときめくからで、人間は未知のものに惹かれる生き物なんだと改めて。

見たいドラマが目白押しで時間が足りないのに、ひと度開封したら、面白すぎて観るのを止めらなかった『脱出おひとり島』。


脚本の勉強をしている身としては、学びのある番組だった。
葛藤こそがドラマをつくるという基本中の基本を再認識&心に刻む。


ちなみに、「地獄島」で流れるアナウンスが、イカゲーム的でツボでした。

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